- 建物タイプ
- 店舗
- 築年数
- 90年
- 間取り
-
Before2KAfter1K
- 費用
- 620万円
- 工期
- 10ヶ月
- 施工箇所
- 家全体、キッチン、トイレ、洗面、断熱
大人も子どもも楽しめるお店をつくる
「いつか夫婦でビールとコーヒーのお店をやりたい」。クラフトビール店に勤務していた慎太郎さんと、バリスタの奈々さんが、生後8ヶ月の息子さんとともに東京から下諏訪に移住してきたのは2019年11月のこと。
もともとは友人が下諏訪で開業したことをきっかけに下諏訪に通うようになり、人とのほどよい距離感や町の景色がとても心地よく感じられたことから、「ここでなら子育てをしながらお店ができそう」と移住を決めました。
家探しにかかった期間は、約2ヶ月。下諏訪の地域おこし協力隊に相談し、もともとは国産のスピーカー工房だった空き家を紹介してもらいました。実はこの物件、以前から伊藤夫婦が気になっていた物件だったそうで、駅や駐車場との距離、ほぼ目の前に温泉、諏訪大社も徒歩数分という好立地だったため、紹介してもらった時には、ほぼ即決だったそう。自宅兼店舗であったことも、決め手になりました。
物件内覧のタイミングで地域おこし協力隊からLayer Architects + Open Designの宮澤さんを紹介してもらい、そのまま設計を依頼。2Kだった間取りは、開放感あふれる、親子でゆっくり過ごせる小上がりのあるカフェスペースへと生まれ変わりました。
宮澤さん「お子さんが生まれたタイミングということもあり、『お客さんが家族で過ごせる空間にしたい』というお話しから計画は始まりました。そのためにも、もともとやりたかったビールとコーヒーに加えて、駄菓子屋さんも一緒にやりたいと。コーヒーとビールという大人が楽しむものの中に駄菓子があれば、子どもがいて当然の空間になる。確かになと思いました。お二人の中には、すでにデザインのイメージもありました。縁日のような駄菓子スペースと、親子が過ごすための小上がり、居心地の良い木の温もりのある内装というイメージは、そのまま再現することにしたんです。」
もともとあった空間を生かしながら作る
宮澤さん「全体の予算に限りがあったので、お金をかけるところ・かけないところのメリハリをまずは考えていきました。断熱や耐震、キッチン・カウンタースペースに費用がかかることが分かっていたので、全体的に既存の空間をできるだけ生かしながら作っています。ドアは既存のものを塗り直して活用し、壁と天井は伊藤さんたちに塗装してもらいました。
駄菓子スペースは、『お祭りや縁日のような雰囲気にしたい』と当初からご要望があったんです。明るいマーケットのような雰囲気がいいということで、町内で家具の制作をしているスケールワークスさんが木箱を作ってくれて。子どもの背丈に合わせてレイアウトしていきました。伊藤さんが用意してくれた照明が加わって、アットホームで楽しい雰囲気を作り出しています。」
動きのある気持ちよさと、ゆったりした心地よさの実現
当初のアイデアでは、入ってすぐ正面にカウンターテーブルを設置することを検討していましたが、お手洗いへの動線や小上がりスペースの人とカウンターの人が互いに気にならないように、入り口を入って左側に設置することにしました。
入り口のそばに駄菓子やテイクアウトスペース、奥にカウンターテーブルと小上がりと、動きの出る場所とゆっくり過ごす場所を分けて配置したことで、カフェの持つ“動きのある気持ちよさ”と“ゆったりした心地よさ”の両方を実現しています。
宮澤さん「ゆっくりビールを飲む方と、テイクアウトで商品を購入される方とが共存できるカウンターテーブルを考える必要があったので、長さには気を配りました。また、テーブルにコーヒーやビールを提供する時のお客さんとの距離感も意識して、テーブルの幅を決めています。遠すぎず、近すぎず、居心地の良さを感じてもらえるよう絶妙なところに落ち着きました。テーブルは楠の一枚板で、素材そのものの色を生かしています。表面のサンダー(素材表面を研磨する電動のやすり)は伊藤さんご夫婦にもかけてもらったんですよ」
今回の工事には伊藤さんご夫婦を始め、奥様の叔父さんが長期滞在をして工事を手伝ってくれたりと、家族総出だったそう。工務店のハウスリペアさんに作業を教えてもらいながら、解体や天井・壁の塗装、キッチンのバックボードのタイル貼りなどの工事を進めていきました。子どもを背負っての毎日の工事は、家族にとって忘れられない体験だったと伊藤さんは振り返ります。
ちいとこ商店は、御田町商店街の並びにあることもあり、諏訪大社や菅野温泉、町歩きのついでにコーヒーをテイクアウトするお客さんも多くいるそう。
宮澤さん「お二人の作業する姿が絵になるのはもちろん、人通りが多いエリアなので、伊藤さん夫婦の様子が外からちゃんと見えるようにしたいと思っていました。なので、キッチンスペースは道路に面した場所に作り、床から一段高さをあげて、作業風景が店内からも外からもよく見えるようにしています。伊藤さん夫婦のためのステージを作りたかったんです。道路に面した窓は木製サッシを新しいものに交換して、テイクアウトスペースとして活かしています。」
家族で過ごせる場所
取材の当日も、テイクアウトに立ち寄るお客さんや、駄菓子を買いに来たお子さんで店内は賑わっていました。
宮澤「僕もテイクアウトのつもりが、この空間の気持ちよさに、つい長居をしてしまうこともしばしばです。カウンターで二人と話しながら休憩するのもいいですし、小上がりでちょっと仕事をするという日もあります。この小上がりは伊藤さんと一緒に作りましたが、ここでお母さんたちが子どもと一緒にくつろいでいる姿と、カウンターでビールを楽しむ大人の姿が、妙にしっくりきて。家族のための場所ができたなと実感するんです。」
Before/After
施工前
施工後
スピーカー工房と展示スペースの間の壁を取っ払い広々としたホール空間に。
お手洗いは状態が良かったので、塗装のみDIYで行った。
施工前
施工後
子どもが入りやすいよう、駄菓子は入り口に設置。ディスプレイの箱は地元の家具職人さんの造作で、お祭りのような賑やかな雰囲気を演出している。
施工前
施工後
小上がりスペースとカウンターテーブルは、それぞれの人の動きが気にならない距離感に設置。
施工前
施工後
スピーカー工房と展示スペースの間の壁を取っ払い広々としたホール空間にして、一枚のカウンターテーブルを設置。飲食を楽しむ人と、テイクアウトの人が共存できる。
宮沢正輝さん
一級建築士
LayerArchitects+OpenDesignは、土地の風土や人のくらしを「Layer=層」のように、透かし重ねることで見えてくる、近い未来にふさわしい生活の場やモノコトを生み出すアトリエ・建築設計事務所です。
くらしのアトリエ LayerArchitects+OpenDesign
〒393-0053 長野県諏訪郡下諏訪町上馬場 5496-23
0266-78-3847
info@layer-architects.com
https://www.layer-architects.com
施主コメント
お店は家族の宝物
以前は東京で暮らしていましたが、子どもが生まれることになり、家族との時間をもっと大切にしたいと思い移住を決めました。
下諏訪に遊びにきた際に宿泊したマスヤゲストハウス(下諏訪にあるゲストハウス)で、地域の人たちが町について白熱した議論をしているのを見て、「自分の町のことをここまで熱心に語れる町はそうない」と思ったのが、下諏訪に興味を持ったきっかけです。
その後も、色々な方とお話をしていく中で、人との距離の近さを感じることができ、「ここなら、子育てをしながらお店ができそう」と思い移住を決めました。
設計をお願いした宮澤さんは、内覧の際にご紹介いただいて知り合ったのですが、お店のことについて色々とお話しをする中で、その人柄や、宮澤さんがこれまで設計してきた物件の雰囲気に惹かれて依頼することを決めました。宮澤さんと出会えて本当によかったです。
工事中の思い出はたくさんありすぎて(笑)コロナ禍での着工の不安や、初めてのクラウドファウンディングへの挑戦。子どもを背負って、時には親戚にも手伝ってもらって、解体作業や壁塗りなどを進めていった日々は一生忘れないと思います。
デザインについても、印象的だったことがありました。今だったらそんなことは思わないんですが…東京で色んなお店を見てきたので、その中で気に入ったスタイリッシュな要素を自分たちのお店にも取り入れたいと当初は思っていたんです。でも、移住して町のことを知るにつれて、「このお店は家族が過ごす場所。本当にスタイリッシュなデザインがいいのかな…」という疑問が大きくなってきて。木の温もりが感じられる、あたたかみのあるデザインにしたのは大きな転換点でした。
店舗を開業して4年が経ちますが、完成したお店は、私たち家族にとって宝物です。可愛くて、愛おしくて、なくてはならない場所です。定休日にお店に座って、「いい空間だなぁ」と思うこともしょっちゅうです。宮澤さんが私たちの気持ちを汲んでくださったおかげで、本当に素敵なお店になりました。何より、夫婦の夢だったお店を持つことができて、感謝しかありません。
今後も、この空間に見合うような、より良いお店に育てていきたいなと思いますね。
伊藤さん
施主
東京都より移住。
2019年11月に下諏訪に移住、2020年7月より「ちいとこ商店」をスタート。
慎太郎さん(30代)、奈々さん(30代)、子ども2人の家族四人暮らし。
駄菓子とビールとコーヒーのお店 ちいとこ商店(飲食店)
大人から子どもまで、昔なつかしい駄菓子や、厳選されたクラフトビール、こだわりのコーヒーが楽しめるカフェ。
営業時間:水曜日12:00〜 | 木-月曜日 OPEN 10:00〜
休業日:インスタグラムよりご確認ください。
〒393-0061 長野県諏訪郡下諏訪町御田町下3217−5
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